第六十六回-「兄を泣かせた天才詩人」
曹操には五人の息子がいました。長男は曹操より前に戦死してしまったので、曹操が亡くなった時には四人になっていました。次男は曹丕(そうひ)、三男は曹彰(そうしょう)、四男は曹植(そうしょく)、五男は曹熊(そうゆう)です。
曹操は亡くなる前、跡継ぎを次男の曹丕に決めていました。後を継いだ曹丕はさっそく兄弟を呼び寄せ臣下の礼をとらせようとします。
ところが四男の曹植だけはよばれてもなかなか出てきません。弟が言うことを聞かないのに腹を立てた曹丕は、部下の軍隊を派遣し曹植を捕らえて、自分の前に引き出します。
曹植は、兄の威厳に驚き、「これからはちゃんと言うことを聞きます!」と許しを求めます。ところが曹丕の怒りは静まりません。ついには彼らの母親、皇太后(曹操の妻)が、とりなして、曹植の命は助かります。
ところが曹丕の部下は、曹植の才能を恐れて、何とかして曹植を殺そうとします。そこで曹丕にこんな提案をします。
「曹植様は、曹操様が生きていたときから、詩を作るのが大変お上手でした。それで曹植様に詩を作らせて、もし不出来であれば、それを口実に殺してしまいましょう。また上手にできたならば、この戦乱の世に、詩に耽っているとは何事だ!ということで、地方に追いやってしまいましょう。」
曹丕はその案を受け入れ、さっそく曹植を呼び出します。
曹植はビクビクしながら兄の前に引き出されます。曹丕は弟の曹植に向かってこう言います。
「お前は父上が生きていたころから詩が上手だった。しかしわたしは、お前の詩は、誰か優れた詩人が代作していたのではないかと思っている。ここで今、詩を作ってみせてみろ。もしできなかったら、長く父上を欺いた罪をただすぞ。」
こういって、曹丕は壁にかかっている絵画を指さします。二頭の牛の闘いを描いた絵で、それには詩が題としてつけられていました。
| “二头闘樯下一牛坠井死” |
この題にある漢字を一つも使わないで闘牛の詩を作れ、と命じます。驚いたことに曹植はあっという間に詩を作ってしまいます。
曹丕もそれを見ていた臣下たちも、そのあまりの才能に舌を巻きます。しかし曹丕は更なる難題を突きつけます。
「曹植、立て!そして七歩、歩け。七歩、歩む間に詩を作らなければ、八歩目にお前の首は落ちていると思え!」と辛辣な命令を出します。
ところが、曹植は一歩ずつ歩きながら詩を吟じ始めます。そしてできた詩はこのようなものでした。
原文:煮豆燃豆萁,豆在釜中泣,本自同根生,向煎何太急
書き下し:「豆を煮るに豆殻を燃やす、豆は釜の中に在りて泣く、もとこれ同根より生じるを、相煮ること何ぞはなはだ急なる」
意味:豆を煮るのに、釜の下では豆穀が燃えている。豆は熱い熱いと釜の中で泣いている。もともと豆と豆穀は同じ根から生じた兄弟なのに、なぜ豆穀はこんなに豆を煮つめるのか?
みなさん、意味はお分かりですか?自分が兄にいじめられていることを、豆穀に火をつけて豆を煮ることに例えて、その悲しさを詠ったのです。
あまりの、素晴らしさに、さすがの曹丕も涙を流し、臣下もみな泣きました。こうして曹植は罪を許され、自分の領地に帰っていったのでした。
では、この出来事にちなんだ成語をご紹介しましょう。
| 成語:煮豆燃萁) |
| 意味:豆を煮るのに豆殻を燃やす・兄弟が害し合う |
| 成語:七步之才) |
| 意味:打てば響くような即興の文才・並外れた文才 |
| 成語:八斗才) |
| 意味:文才が非常に優れていること |
さて、次回は「“刘备报仇”-劉備の大失敗」と題してお送りします。


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